ペットと家畜の違いはどこにある?人が動物を飼い始めた歴史をたどる
同じ哺乳類なのに、犬や猫は家族として迎えられ、牛や豚は食べるために育てられます。この線引きは、いつ、どうやって決まったのでしょうか。
私は公務員獣医師として県の家畜保健衛生所に勤めていました。その立場から見ると、「家畜」と「ペット」は思っているほどきれいに分かれていません。法律上は、ペットとして飼われているヤギも家畜として扱われます。
この記事では、人が動物を飼い始めた歴史をたどります。ペットと家畜にそれぞれどんな動物が選ばれたのか、日本ならではの家畜の歴史や、いまの法律による線引きまであわせて紹介します。
ペットと家畜の歴史を比較する

人が動物の繁殖をコントロールし、世代を重ねるなかで人にとって都合のよい性質を選んでいく過程を「家畜化」といいます。ポイントは、飼い慣らすことではなく繁殖に人が関わることです。
なお家畜化は産業動物だけでなく、犬や猫のように人と暮らす動物にも使われることばです。
主な動物が家畜化された時期を年代順に並べると、次のような流れになります。
- 犬:およそ1万5000年以上前(諸説あり)
- 豚:紀元前9000年頃 複数の地域で
- 牛:紀元前8300〜8000年頃 アナトリア半島・中東
- 猫:紀元前7500年頃〜 キプロス島から古代エジプトへ
- 鶏:紀元前6000年頃 インド〜東南アジア(諸説あり)
犬は狩猟採集の時代に家畜化されています。ただし、初めから愛玩のために飼われていたのではなく、狩りや番という仕事を担う存在から、時間をかけて家族の一員のような存在に近づいていったと考えられています。
豚や牛が家畜になったのは、人が農耕と定住を始めたあとです。
ペットとして選ばれた動物とその共通点

次に、愛玩動物として選ばれてきた動物を見ていきます。
犬
犬の祖先はハイイロオオカミとされています。人の集落に残る食べ残しに引き寄せられた個体のうち人を恐れないものが残り、やがて狩猟や番、牧羊といった役割を担うようになりました。
犬は用途に合わせた品種改良が最も進んだ動物で、能力ごとに犬種が分かれていきました。
猫
猫の祖先はリビアヤマネコです。人が穀物を蓄えるようになるとネズミが集まり、それを狙う猫が人里に住みつきました。
猫は犬と違って、人が役割を与えて選抜した部分が少ない動物です。品種のほとんどは19世紀以降につくられたもので、体つきや行動は野生のヤマネコに近い特徴が多く残っています。
鳥、うさぎ、魚
小鳥は鳴き声や羽の色を楽しむために飼われてきました。うさぎは元々食用・毛皮用の家畜で、そこから愛玩用に分かれました。金魚はフナの突然変異体を人が選び続けて作り出した、観賞専用の魚です。
共通する5つの特徴
愛玩動物として残った動物には、次のような共通点があります。
- 人のそばで落ち着いていられる
- 人の表情や声に反応する
- 見て楽しめる要素がある
- 住居のなかで飼える大きさである
- 繁殖を人が管理しやすい
動物が人とともに生きるためには、人との距離が近くても強いストレスを受けない性質が必要です。これを満たさない動物は、どれほど魅力的でも家庭では飼えません。
家畜として選ばれた動物とその共通点

一方、家畜に求められたのはまったく別の条件です。家畜は肉や乳、卵、毛、労働力など、人が利用するものを得るために飼われる動物で、経済動物とも呼ばれます。
牛、豚、羊、馬、鶏
牛は乳と肉に加えて、田畑を耕す役畜としての役割が大きい動物でした。豚は成長が早く、人の残り物も食べられます。羊は毛と乳、馬は移動と輸送、鶏は卵と肉と、それぞれ人がその動物から得るものがはっきりしています。
家畜化できる動物の条件
家畜になった大型の哺乳類には、次の6つの条件が共通しています。
- 人が食べない草などを餌にできる
- 人より成長と繁殖が早い
- 飼育下でも繁殖する
- 気性がおとなしい
- 驚いてもパニックを起こしにくい
- 群れに順位があり、序列に従う
群れのなかで順位を受け入れる動物は、人を上位の存在として受け入れられるため、管理がしやすくなります。
家畜にならなかった動物
例えば、シマウマは馬とよく似た姿をしていますが、気性が荒く人に馴れにくいため家畜になりませんでした。クマは大量のエサを必要とするうえ、飼育には危険が伴います。
つまり、人と暮らすことに耐えられる性質をたまたま持ち合わせていた動物だけが家畜になったということがわかります。
日本の家畜の歴史
日本の家畜の歴史は、ほかの地域と少し違う道をたどっています。675年に最初の肉食禁止令が出てから、明治天皇が牛肉を食べた1872年まで、およそ1200年にわたって肉食が公には禁じられていたためです。
この時代、日本で牛と馬が担った中心的な役割は、田畑を耕し、荷を運ぶことでした。
しかし、肉食が表向きには禁じられていた時代にも、食べる文化は途切れませんでした。禁忌が強いのは牛や豚など四つ足の動物で、鶏や鴨、雁は普通に食べられています。
1872年、明治天皇が牛肉を食べたことが公にされ、肉食は文明開化の象徴になりました。日本で牛や豚が「食べるための動物」として定着したのは、世界の家畜の歴史から見ればごく最近のことです。
日本でペットが広まった歴史

家畜の歴史が他国と異なっていた一方で、日本のペットの歴史はもっと古くから始まっています。
最も身近な相棒である犬は、すでに縄文時代から人と暮らしていました。
猫は奈良時代に中国から持ち込まれたという説が知られてきましたが、弥生時代の遺跡からイエネコとみられる骨が見つかったという報告もあり、渡来の時期ははっきりしていません。平安時代には貴族が猫を室内で飼い、その様子を日記に記した記録が残っています。
動物を飼う文化が庶民にまで広がったのは江戸時代です。犬や猫に加えて金魚が大流行し、江戸後期には小鳥の飼育がブームになって専門書も出版されました。肉食が禁じられていた時代にも、動物をペットとして愛でる文化のほうは早くから育っていたことになります。
家畜とペットの境界は国や時代で変わる

最後に、家畜とペットの線引きが今どうなっているかを見ていきます。
犬の食習慣がある国も
私は2009年ごろ、大学を卒業する前に中国を訪れたことがあります。上海周辺の市場では、食用の犬がほかの肉と同じように露店に並んでいました。日本では見ることのない光景で、動物と人との関係のとらえ方はこれほど国によって違うのかと驚いたことを覚えています。
ただし、これは十数年前の話です。その後、中国での犬の位置づけは大きく変わりました。
2020年、政府が家畜として扱う動物のリストを初めて公表した際、犬は入りませんでした。ペットや盲導犬、警察犬など用途が広がり、人との関係が近くなったことが理由です。食べること自体を全国一律で禁じたわけではありませんが、国として「犬は家畜ではない」と位置づけた形です。
法律によって変わる日本の線引き
日本の法律でも、家畜とペットは動物の種類で分かれていません。例えば、「ペット」として飼っているヤギでも、伝染病対策の法律では「家畜」として扱われます。同じ1頭が飼育目的や法律によって家畜にもペットにもなるということです。
まとめ

人と動物の関係の歴史を整理すると、最初に人のそばに来たのは犬で、農耕が始まる前から人と一緒に暮らしていました。
羊、山羊、豚、牛などの家畜化は、農耕と定住が始まったあとに進みました。家畜になったのは、気性や繁殖、群れの性質など、人と暮らせる条件を備えた動物だけです。
日本では公には肉食が禁じられていた時代が長く、牛馬は田畑を耕す役畜として飼われてきました。一方で、ペットを飼う文化は早くから育ち、江戸時代には庶民にまで広がりました。
ペットと家畜の違いは、動物の側にあるのではなく、人がその動物に何を求めてきたかの違いです。だからこそ境界は時代とともに動きます。中国で犬が家畜のリストから外れたように、いまも引き直されている最中です。
家畜保健衛生所で牛や豚などに関わってきた経験から思うのは、どの動物にも人が負う責任は変わらないということです。役割が違うだけで、生きている動物であることに差はありません。
この記事が、身近な動物との関わりを少し違う角度から考えるきっかけになれば幸いです。
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