【獣医師監修】事故や飛び降りで発症する?犬猫の横隔膜ヘルニアとは
横隔膜ヘルニアという病気をご存じでしょうか。「横隔膜」や「ヘルニア」という言葉は聞いたことがあるかと思います。
動物病院で遭遇することもそんなに多くはないのですが、実は横隔膜ヘルニアは命に関わる可能性のある疾患です。
今回は、犬猫の横隔膜ヘルニアについて解説します。
横隔膜ヘルニアとは

横隔膜は胸腔(肺や心臓がある場所)と腹腔(肝臓、腎臓、胃や腸といった消化管などが収まる場所)を分ける筋肉で、呼吸に密接に関与しています。
横隔膜ヘルニアは、横隔膜が裂開することで腹腔臓器が胸腔内に嵌頓(かんとん:筋肉のすき間に挟まったまま戻らなくなる)する状態です。つまり、何らかの原因で横隔膜に穴が開き、胃や腸がその穴から入り込む状態です。
これによって肺が膨らみにくくなり、また消化管が圧迫されることによって嘔吐などが引き起こされます。
先天性横隔膜ヘルニア
横隔膜が生まれつき癒合しないことで発生し、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
先天性横隔膜ヘルニアは、腹膜心膜横隔膜ヘルニア、胸膜腹膜ヘルニア、食道裂孔ヘルニアに分類されます。この中で胸膜腹膜ヘルニアは、死産や新生子で死亡してしまうことがほとんどです。
後天性横隔膜ヘルニア(外傷性横隔膜ヘルニア)
犬猫の横隔膜ヘルニアでは、後天性のものが圧倒的に多く発生します。
交通事故や高所からの飛び降りなどによって横隔膜に内臓の圧力が加わり、横隔膜が裂開することで生じます。猫では、高所からの落下によって発症することもあります。
好発犬種/猫種

先天性横隔膜ヘルニアのうち腹膜心膜横隔膜ヘルニアでは、犬ではワイマラナー、猫ではヒマラヤンやメインクーンで多いと報告されています。
後天性横隔膜ヘルニアは、外傷性のものが若齢で多いとされています。
症状

横隔膜ヘルニアの症状は無症状から消化器症状、呼吸器症状など様々です。全く症状を示さずに避妊/去勢時の検査で偶発的に発見されることもあります。
また、横隔膜ヘルニアが発生してからすぐには症状を呈さず、事故から数カ月経ってから呼吸困難などが発現することもあります。
- 嘔吐
- 腹痛
- 呼吸速迫
- 呼吸困難
- チアノーゼ
- 咳
普段は無症状ですが体勢によって呼吸困難が発現する場合もあります。さらに、逆さ(逆立ちの状態)にすることで腹腔内臓器が肺を圧迫し、呼吸困難が発現することもあります。
愛犬や愛猫が同じ体勢のまま動かない時は、その姿勢が楽だということなので、できるだけ体勢を維持したまま動物病院を受診した方がいいかもしれません。
診断

横隔膜ヘルニアの診断は、腹腔内臓器の胸腔内への変位を確認することで行われます。そのためには画像検査が有用ですが、全身状態を把握するために血液検査も行うことがあります。
問診/一般身体検査
年齢、事故や落下の有無を確認します。また、聴診にて胸部で消化管の蠕動音が聴取できることがあります。
身体検査の際に体位を変えることで呼吸困難が発現する可能性があるため、問診の時点で横隔膜ヘルニアが疑われる場合には、身体検査は慎重に行います。
X線検査
胸水貯留、胸腔内における消化管ガス、横隔膜ラインの消失、肺の虚脱、心陰影異常が確認できます。
必要に応じてバリウム造影を実施し、胸腔内に入り込んだ消化管の存在を確認することもあります。
CT検査
手術の前に、横隔膜のヘルニア孔の把握や入り込んでいる腹腔内臓器の位置確認のために行うことがあります。
また、小さなヘルニア孔も描出できるため、治療のやり残しを防ぐこともできます。
治療

治療は外科手術が必要となります。
逸脱した腹腔臓器を整復し、横隔膜に開いた穴を閉鎖します。その際に腹腔内臓器に出血や障害がある場合には、臓器の一部切除を行うこともあります。
また、胆道閉塞、胃捻転、腸捻転などを発症した場合には緊急手術を実施する必要があります。その際にはショック状態であることも少なくないため、まずは循環状態の改善や呼吸の確保などを行います。
予後

事故などで横隔膜ヘルニアが生じた場合、動物の状態を安定させることが先決です。安定した後に手術を行わないと、死亡率が高くなると言われています。
また、先天性横隔膜ヘルニアが成長後に発見された場合、手術に対しては十分に考慮する必要があります。これは、圧迫され続けたことによって虚脱した肺を膨らませることによる術後の肺水腫や、腹腔容積の減少による循環障害に対する術中および術後管理が必要となるからです。
予防

先天性横隔膜ヘルニアは遺伝的素因が関与していると考えられているため、発症している犬猫は繁殖に供さないほうがいいでしょう。
また、後天性横隔膜ヘルニアの予防には、事故や転落などの外傷リスクを低減させることが重要です。
家具の配置などを工夫し、猫の場合は室内飼いを徹底すると横隔膜ヘルニアの予防に繋がります。
まとめ

横隔膜ヘルニアをはじめとする呼吸器に関係する疾患は、時に命を脅かします。
日頃から愛犬や愛猫の様子を観察し、何かいつもと違うところがあればすぐにかかりつけの動物病院に相談しましょう。
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