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ウサギはいつから日本で飼われていた?飼育の歴史をたどる

伊藤 悦子
伊藤 悦子 家畜人工授精師 、ペット栄養管理士

ウサギは、いつから日本でペットとして飼われているのでしょうか。「因幡の白兎」や「鳥獣戯画」などに描かれているので、ずっと昔から日本ではペットのような存在なのではないか、と思うかもしれません。

しかし、実は現在のペットのウサギは、室町時代にヨーロッパからやってきた「アナウサギ」です。因幡の白兎は日本の固有種「ニホンノウサギ」なので種類が異なります。

では、アナウサギは日本でどのように飼育されてきたのでしょうか。今回は、身近な存在でありながら、意外に知られていないウサギの飼育の歴史について紹介します。

日本のウサギとヨーロッパのウサギの違い

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家庭や学校などで飼育されているペットのウサギはアナウサギで、「ヨーロッパアナウサギ」を家畜化したものです(この記事ではペットのウサギを「アナウサギ」と表記します)。

古事記の因幡の白兎はニホンノウサギであり、現在のペットとして流通しているウサギとは種類が異なります。筆者は子どもの頃、「日本古来の因幡の白兎がそのままペットとして流通している」と勘違いしていました。

イギリスの絵本に出てくる「ピーターラビット」はアナウサギということになります。つまり因幡の白兎とピーターラビットは、異なる種類のウサギなのですね。

ちなみに、日本の野生のウサギは大きく3種類に分けられます。北海道に生息する「ナキウサギ」、奄美大島と徳之島のみ見られる「アマミノクロウサギ」、そしてニホンノウサギです。

ニホンノウサギとアナウサギの違い

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ニホンノウサギとアナウサギは一見似ているようでいて、さまざまな違いがあります。それぞれの特徴を紹介します。

ニホンノウサギとアナウサギの比較

ニホンノウサギとアナウサギには次のような違いがあります。

ニホンノウサギ アナウサギ
人馴れ 馴れない 馴れる
生活スタイル 単独で生活 群れで生活
巣穴 掘らない 掘る
白毛ウサギの目の色 赤(アルビノ)
白毛ウサギの耳の先の色

日本の代表的な野生のウサギは、ノウサギ属のニホンノウサギです。現在も本州・四国・九州などに生息しています。人に懐かないのが特徴で、生活スタイルは単独行動が基本です。アナウサギのように巣穴も掘りません。

また、ニホンノウサギとアナウサギは染色体の数が異なるため、両者が交配・繁殖することはないとされています。

アナウサギは人馴れする

アナウサギとは、アナウサギ属のヨーロッパアナウサギを家畜化したウサギで、ニホンノウサギと異なり人馴れします。だからこそ、ペットとして親しまれてきたのです。

ただ、毛皮や食料のために繁殖されて、ヨーロッパだけでなくアメリカにも広がったという経緯もあるため、単なる愛玩動物ではなく「家畜のような存在」として扱われていた時期もあったといえます。

目の色と耳の先の色の違い

ニホンノウサギとアナウサギは、目の色と耳の先の色にも違いがあります。

ニホンノウサギの目の色は黒です。一方、アナウサギには目が赤い個体もいます。これはアルビノによるものです。

また、ニホンノウサギは、夏は茶色で耳の先が黒い毛をしていますが、冬になると白い毛に生え変わります。冬の白い毛になっても、耳の先だけは黒色が残るのも特徴です。

絵画からわかるニホンノウサギとアナウサギの違い

因幡の白兎を描いた作品の中には、白兎の目が赤く描かれているものがあります。因幡の白兎は、目が黒くないと史実に忠実とは言えません。つまり、絵本などで因幡の白兎の目が赤いと、アナウサギが古事記の時代からいたことになってしまいます。

ニホンノウサギとアナウサギの混同に関しては、帝京科学大学の桜井富士郎先生が『日本獣医史学雑誌』に論文を掲載しています。因幡の白兎の絵本で、目の赤いアナウサギを描いてしまっているケースがなんと62%もあったそうで、混乱するのも無理はありませんね。

また、ニホンノウサギの耳の先が黒いことは、『高山寺蔵鳥羽僧正鳥獣戯画』のウサギの絵から確認できます。

出典:燦陽会 編『高山寺蔵鳥羽僧正鳥獣戯画』(国立国会図書館デジタルコレクション

ウサギの耳の先が黒く描かれています。つまり鳥獣戯画のウサギはまさしくニホンノウサギであり、忠実にスケッチしていることがわかります。

アナウサギが日本に来たのは室町時代

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アナウサギが日本に来たのは、室町時代の天文年間(1532~1555年)とされています。南蛮貿易が盛んになった時代であり、オランダやポルトガルなどから持ち込まれたのでしょう。

ただ、その後ペットとしてウサギがどのように扱われていたのかは、資料があまりありません。

しかし、時代が下った江戸時代になると、日本でアナウサギが飼育されていたことが推測できる資料が見られます。円山応挙が描いた『百兎図』です。

タイトル通り、たくさんのウサギが群れている絵なのですが、白い毛に赤目をしたウサギが描かれています。つまりアナウサギが江戸時代にいたことになるのです。

また、ニホンノウサギは群れないことからも、絵画の中で群れているウサギはアナウサギだと考えられます。身分高い人などにペットとして飼われていたのかもしれませんね。

『百兎図』は日本経済新聞のデジタル版から見ることができます。

ウサギの日本史 古典からひもといてみた – 日本経済新聞

明治時代には投機に使われたウサギ

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アナウサギは、明治時代になると大きな注目を集めるようになります。明治2年(1869年)、中国からは南京兎、そして明治4年(1871年)にはアンゴラ種が日本に入ってきました。明治5年(1872年)には、ウサギの飼育が大流行します。

番付表が出るほどのウサギ人気

明治時代は特に変わった毛色や模様を持つウサギがもてはやされて、相撲のような「ウサギ番付表」まで発行されるほどでした。

ウサギ番付表の「家兎競(うさぎくらべ)」は、江戸東京博物館デジタルアーカイブスでご覧になれます。番付表の行司は旧大名です。そして、ウサギの出どころには「鳥」と名前がついている人がたくさんいることがわかります。

つまり、江戸時代の鳥屋が明治時代になるとウサギを扱うようになったと推測されるのです。

家兎競 江戸東京博物館デジタルアーカイブス

課税によるウサギブームの終焉

なんと月収が1円の時代に数百円の値が付くこともあったほど、ウサギはお金になったようです。

華族や商家の旦那衆だけでなく、廃刀令で職を失った元武士たちが新たな収入源として飛びついたのでしょう。変わったウサギを売ってお金を儲けるといったブームになったのです。

政府はとうとう「ウサギ1匹につき月1円の税」を課すようになりました。この課税でブームは沈静化したものの、ウサギは空き地などに捨てられてしまったと考えられます。

戦時中に毛皮と食料になったウサギ

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時代が進むと、今度は物資のような役割をアナウサギは担うことになります。日清・日露戦争の時代には、毛皮は衣類などに、そして肉は食用にするためにウサギの飼育が国によって奨励されました。

アナウサギは群れで暮らし、非常に強い繁殖力を持つ動物です。草食動物であり、どんどん増えるウサギはコストがかからなかったのでしょう。愛玩動物というより「資源」という存在だったといえます。国はウサギを増やすために学校などでの飼育も推奨していました。

情操教育のために学校で飼育されるウサギ

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戦後は、そのまま学校でウサギ飼育は継続されました。いわゆる情操教育のためです。子どもたちはウサギの世話を行って、動物をかわいがることを学びました。小学校の校庭にウサギや鶏がいたという方もいるのではないでしょうか。

今から15年くらい前、筆者の子どもが小学生のときは校庭でウサギを飼っていました(都内市部)。ウサギ係は大変な人気で、たくさんの立候補者がいたのを覚えています。

ただし、最近は教員の負担の問題や飼育の知識不足、動物福祉の観点からも学校のウサギ飼育は減っているようです。基本屋外で飼育するため、最近の夏の暑さがウサギにとって大きな負担となっていることも一因でしょう。

https://cheriee.jp/articles/35447/

一方で、獣医師が協力をしながら適切な飼育を学校に指導する流れもあります。「学校ウサギの夏冬の預かり活動」を行っている獣医師会もあります。

「学校ウサギの夏冬の預かり活動」についてのご報告: 京都中央動物病院 Dr.voice

現在は大切なペットになっているウサギ

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現在のウサギはというと、人々の大切なペットとして定着しているといえるでしょう。ウサギの飼育頭数は実際に増加しています。

アニコム損保の調査によればウサギの契約頭数は、2008年度では 2,359頭、2015年も3,384頭とあまり変わりはありませんでした。ところが2016年度から増え続け2020年度では21,604頭となっています。

同社による2025年の「家庭どうぶつ白書」によればウサギの契約頭数が23,189頭となっているので、さらに増えていることがわかります。

何よりもウサギはかわいい動物です。飼っている人がSNSなどでウサギの魅力を発信しているのも、飼育頭数の増加の背景といえるでしょう。

ウサギを診る動物病院も増えており、ペットとして飼育しやすい環境も整ってきています。正しい飼育方法も周知されてきていることから、今後もウサギを飼育する人は増えていくのではないでしょうか。

日本のウサギ飼育の歴史まとめ

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今回は、日本のウサギ飼育の歴史について紹介しました。ペットとして飼われているウサギはヨーロッパからやってきたアナウサギです。古事記に出てくる因幡の白兎や鳥獣戯画のウサギは日本固有のニホンノウサギであり、アナウサギではありません。

室町時代にヨーロッパから日本にやってきたアナウサギは、明治時代には投機の対象になり、戦時中は毛皮や肉のために飼育されていました。

戦後は子どもたちの情操教育のための学校飼育動物として飼育されるケースも多かったのですが、昨今はペットとしての人気が高まっています。

人の都合や社会情勢に巻き込まれてきたアナウサギですが、今後はペットとして大切に飼育されていってほしいと願っています。

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