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いぬ健康

【獣医師監修】慌てずに適切な行動を!犬や猫の急性腎不全とは?

相澤 啓介
相澤 啓介 獣医師

腎臓は尿を産生、排泄することで体内への毒素の蓄積を防いでいます。では、その腎臓が何らかの原因で急な機能不全に陥ったとき、体内では何が起こるのでしょうか。

今回は犬猫の急性腎不全について解説します。

急性腎不全とは

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急性腎不全は、腎血流量や糸球体濾過量の減少によって乏尿や無尿となり、代謝産物、水分や電解質が体外へ排出されない状態と定義されています。的確な診断と治療が行わなければ、命に関わることが多いです。

原因としては、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 低血圧:出血、副腎機能不全、敗血症、心原性ショック
  • 血液減少症:熱射病、播種性血管内凝固、腹膜炎、血栓塞栓症、長時間麻酔
  • 腎毒性物質:ヒ素、鉛、エチレングリコール、抗菌薬、ブドウ、ユリなど
  • 急性糸球体腎炎
  • レプトスピラ症
  • 高カルシウム血症:リンパ腫、上皮小体機能亢進症、ビタミンD過剰症
  • 尿石症などによる尿路閉塞

症状

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急性腎不全の臨床徴候として、以下が認められます。

  • 急激な元気消失
  • 食欲不振
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 乏尿/無尿
  • 痙攣

経過が長期化すると尿毒症性口臭や口腔内潰瘍が見られることもあります。

また、若齢の場合は異常が生じているのとは反対側の腎臓の肥大によって代償されやすいですが、老齢の場合ではこれが起こらないため、症状が重篤化しやすい傾向にあります。

診断

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適切な治療の選択および正確な状態の把握のため、各種検査を行います。一般的に急性腎不全に陥った犬猫は状態が悪いことが多く、迅速な対応が求められます。

血液検査

尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、リン(P)酸-塩基平衡の評価が必要です。

特にカリウムと酸-塩基平衡は、治療に使用する輸液剤の種類を左右するので絶対に外せません。

画像検査

X線検査や超音波検査にて、腎臓の形態(大きさや形)や構造の異常がないかを確認し、急性腎不全を起こすような疾患がないかをチェックします。また、腎臓への血流の評価も行います。

さらに、急性腎不全と症状の似ている他の疾患との鑑別も行います。

尿検査

急性腎不全では尿の産生が少ない、あるいは無くなっているため、尿の採取は困難なことが多いです。しかし、膀胱内に少量でも尿貯留があれば、穿刺採尿やカテーテル採尿にて尿検査を実施します。

心電図検査

血清カリウム濃度の上昇は急性腎不全を疑う徴候になりますが、高カリウム血症は心電図の変化をもたらします。

心電図をモニターすることで、治療による血清カリウム濃度の変化を捉えることができます。

治療

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急性腎不全の治療は、保存療法と透析療法に分けられます。

来院時に既に全身状態が悪い場合は、緊急で酸素吸入や輸液などを行い、救命処置をします。

保存療法

保存療法は対症的に治療することを目標とします。つまり、血液などの細胞外液量の変化、高カリウム血症、酸-塩基平衡、窒素老廃物と尿毒症物質の貯留を是正していきます。

急性腎不全で問題となるのは電解質異常、特に高カリウム血症であり、これによって不整脈など命に関わる病態が出現します。

高カリウム血症は、輸液、カリウム保持性でない利尿薬、重炭酸ナトリウム、インスリンとブドウ糖などを投与することによって治療します。

  • 輸液:腎臓への血流量の確保、嘔吐や下痢による脱水の補正、血液量増加による血圧の確保などを目的として静脈からの輸液が行われます。
  • 利尿薬:輸液とともに尿の産生を促し、尿毒症物質を排泄させます。一方で、利尿薬は腎臓に負担を与える薬剤であるため、投与は慎重に行います。
  • 重炭酸ナトリウム:急性腎不全では一般的に、血液が酸性に傾く代謝性アシドーシスとなります。多くの場合は輸液によって是正されますが、輸液によっても反応しない場合には血液をアルカリ性に傾ける物質が投与されることもあります。
  • 制吐薬:嘔吐によって脱水が進行し腎血流量がさらに減少すること、また胃酸過多による尿毒症性胃炎を予防するためにも制吐薬を投与します。

透析療法

犬猫の透析は人間の血液透析ではなく、腹膜透析を行うことが多いです。
これは透析液(等張性あるいは高浸透圧性の多電解質溶液)を腹腔内に貯留させ、体液中の溶質と透析液中の溶質が平衡状態になったところで体外に排液することで、腎臓の役割の一部を代替します。

予後

早期に治療が行われ、電解質異常の改善や、尿の産生が速やかに行われるようになった場合は予後良好です。一方で、治療の開始が遅れたり、あるいは治療に対する反応が悪い場合には命に関わったり、慢性腎不全に移行することもあります。

急激な体調の変化に慌てずに、適切な行動をとることが大切です。

予防

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急性腎不全の原因は様々ですが、日常生活内で予防できるものとしては腎毒性物質を摂取させないことがあります。ブドウやユリ、人の薬などを誤食させないことが重要ですので、これらの管理には十分に注意しましょう。

また、レプトスピラ症についてはワクチン接種での予防が可能であるため、住んでいる地域や旅行の予定などによっては接種を検討してみるのも良いでしょう。

まとめ

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急性腎不全は、迅速で的確な対応が求められる緊急疾患です。症状は急に現れることも多いですが、慌てずに対処しましょう。

急性腎不全に陥る素因がないか、定期的に健康診断を受けるのも良いかもしれませんね。

何か気になることがあれば気軽にかかりつけの獣医師までご相談ください。

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