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いぬ健康

【獣医師監修】命に関わることも!犬の子宮蓄膿症とは?

相澤 啓介
相澤 啓介 獣医師

子宮蓄膿症は、避妊手術を受けていないメス犬によく見られ、動物病院でも目にすることの多い疾患です。

しかしその一方で、子宮蓄膿症は簡単な疾患ではなく、急性の経過をとる場合や、閉鎖型と呼ばれるタイプでは命に関わることもあります。

今回は侮ってはいけない犬の子宮蓄膿症について解説します。

子宮蓄膿症とは

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読んで字のごとくですが、子宮蓄膿症は子宮腔に膿液が貯留する疾患です。子宮頚管が広い開放型では、黄褐色からアズキ色の膿様物が陰門部より排出されます。

血尿や血便といった主訴、陰門部の汚れによって気付くパターンが多いように感じます。また、子宮頚管の狭い閉鎖型ではこのような膿様物の排出は見られず、気付かずに症状が悪化するケースもあります。

好発犬種/年齢

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犬種による発症率差は認められません。本症は6歳以上で発情後2ヵ月近くの黄体期に発生し、交配の有無とは関係しません。

また、産歴との関係が強く、未経産犬および長く繁殖を休止している経産犬に発生し、繁殖を繰り返している犬には発症しません

発生要因

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膿様物からは主に大腸菌が分離され、このことから子宮蓄膿症は外陰部からの菌の侵入が原因なのではないか、部屋や環境の清潔さが関係しているのではないかと聞いてくる方が非常に多くいます。しかし、犬の子宮蓄膿症は、内分泌的な因子が原因であることがわかっています。

そもそも肛門と外陰部は解剖学的な距離も近いため、膣への細菌の侵入を完全に遮断することは困難です。つまり、通常は免疫により侵入してくる細菌を排除できますが、卵巣から分泌されるホルモン(エストロジェンやプロジェステロン)によって感染に対する抵抗性が弱くなることが子宮蓄膿症発生の大きな要因となります。

症状

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発症からの期間や子宮内細菌の種類によって症状は様々ですが、一般的に以下のようなものが見られます。

  • 食欲不振
  • 多飲多尿
  • 嘔吐
  • 腹部膨満/下垂
  • 陰門部からの膿様物の排出
  • 発熱(急性型)/体温低下(重篤な中毒例)

重症化すると腎障害や敗血症、子宮破裂を起こすこともあります。発情出血が確認された後1〜2か月間くらいは、上記の症状がないか、体調に何か変化がないかしっかりと確認しましょう。

診断

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特徴的な悪臭のする膿様物を確認することで子宮蓄膿症を疑うことはできますが、その膿様物が本当に子宮に貯留しているのか、また、全身状態を把握するためにもしっかりと検査を行います。

問診/身体検査

問診や身体検査は、子宮蓄膿症を疑う入口として非常に重要な検査です。
避妊手術の有無、発情出血の時期、陰部からの膿様物排出の有無などを確認します。

血液検査

炎症を示す白血球数の増加、尿素窒素(BUN)の上昇が認められます。
CRPという炎症マーカーの上昇も確認できます。

画像検査

画像検査は子宮蓄膿症の確定診断に用いられます。X線検査や超音波検査にて、子宮内部に液体の貯留を確認します。

しかし、画像上で明らかな子宮内の液体貯留が認められない症例もあるため、外陰部から漏れ出る膿様物の細胞診や血液検査の結果などから総合して判断することもあります。

細胞診

外陰部から排出される膿様物の性状を顕微鏡で確認します。
多量の白血球と細菌が確認できれば、血尿ではなく膿であると言えます。

治療

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一般的には外科手術が治療の第一選択となります。その際は治療のメリットとデメリットを把握し、納得した上で手術を行います。

外科手術

全身麻酔の上で、子宮と卵巣を全摘出することで根本的な治療となります。また、今後の子宮蓄膿症の再発を完全に予防することができます。

手術後に腎不全を起こすこともあり、術後管理は慎重に行われます。一方で、妊娠ができなくなるため、手術の前には獣医師としっかり相談しましょう。

とは言っても子宮蓄膿症は時に命に関わる疾患であるため、救命のためにも治療は外科手術をお勧めします。

内科的治療

子宮蓄膿症があまり重篤でない場合(開放性の子宮蓄膿症で子宮内に膿の貯留が少ない)、全身状態が悪く外科手術に耐えられない場合には、抗菌薬や子宮収縮薬の投与、輸液療法などの内科療法が選択されることがあります。

しかし、内科療法は根本的な治療にはならず、急激な症状の悪化や今後の再発のリスクが常に付きまといます。

予後

敗血症やショックなどの合併症を引き起こしていなければ、予後は良好です。

予防

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避妊手術によって発症の予防が可能です。将来的に繁殖を希望しないのであれば、早期に避妊手術を受けることをお勧めします。

若い時期に避妊手術を受けることで、乳腺腫瘍の発生も予防することができます。

まとめ

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子宮蓄膿症は放置しても改善しないばかりか、時には命に関わる疾患です。避妊手術を受けていないシニア犬は特に、日常での健康観察をしっかり行っていきましょう。

何か気になることがあれば、気軽にかかりつけの動物病院までぜひご相談ください。

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