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ねこ健康

【獣医師監修】猫の歩様異常で考えられる病気とは?

相澤 啓介
相澤 啓介 獣医師

猫にとって、生活する上で歩くことや跳ぶことは欠かせない行動です。皆さんは猫と一緒に暮らす中で、その歩き姿がいつもと違い、何かおかしいと感じたことはあるでしょうか。

猫をはじめとする動物は、自身の体の異常を極力隠したがる本能があります。そんな愛猫の違和感を気のせいと片付けていませんか?

今回は、猫の歩様異常で考えられる疾患について解説します。

歩様異常とは

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  • 足を引きずる(跛行)
  • 足が地面に着かない(挙上)
  • フラフラする
  • 真っ直ぐ歩かないなど

これらをまとめて「歩様異常」と表現します。要するに歩き方がどこかおかしい状態です。

症状が明らかではないことも多く、気付くのに苦労することも少なくありません。また、高いところに飛び乗る回数が減ったといった行動の変化が見られることもあります。

動画を撮影する

絶対におかしいと思い、動物病院を受診しても愛猫はいつも通り…というケースは非常に多いです。特に軽い痛みによる跛行(足を引きずる)は、動物病院での緊張によって隠れてしまいます。そんな時は動画を活用しましょう。

横からの歩き姿と上からの歩き姿があると、原因となる足がどこなのか、わかりやすくなるかもしれません。また、どこか特定の箇所を触ろうとすると嫌がるなどの情報も、重要な手掛かりになります。

骨関節疾患

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ヒトも年齢を重ねるごとに膝や腰が痛むことがありますが、猫の骨関節疾患では、ケガや炎症などによって足が痛むために歩様異常が現れます。

痛みがひどい場合には、食欲不振などの症状も見られることがあります。

骨折/脱臼

【症状】
突然の跛行、患肢の挙上、触られるのを嫌がる、元気消失、食欲不振など。骨盤骨折では排便困難も見られる。
【原因】
高所からの落下、ドアに挟まる、ケンカ、交通事故など。
【備考】
明らかに患肢を痛そうにするので、発見次第動かさないように注意しながら動物病院へ連れて行く。

変形性関節症

【症状】
元気消失、ジャンプしなくなる、毛づくろいが減る、跛行、患肢の挙上など。
【原因】
肥満や運動不足などによる関節への負荷の増大など。
【備考】
肥満の予防は関節炎だけでなく、糖尿病や肝リピドーシスなどの疾患の予防にもつながるため重要。

骨軟骨異形成症

【症状】
関節痛による跛行、活動性の低下、ジャンプしなくなるなど。
【原因】
スコティッシュフォールドやマンチカンの遺伝疾患として知られている。
【備考】
折れ耳のスコティッシュフォールドは100%骨軟骨異形成症だと言われている。関節の痛みを緩和するサプリメントなどを用いて元気に過ごせるようにする。また家では段差を少なくするなどの工夫も必要。

膝蓋骨脱臼

【症状】
後肢の跛行、ジャンプしなくなる、活動性の低下など。
【原因】
ほとんどは先天性だが、原因はわかっていない。後天性膝蓋骨脱臼は高所からの落下などによる外傷が原因となる。
【備考】
犬ほど多くはないが、後肢の跛行では鑑別リスト(※)に入ってくる。

※鑑別リストとは、症状から考えられる疾患を絞り込むための候補一覧で、診断の手がかりとして用いられます。

脳や神経の異常

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足を動かす筋肉に指令を出す、あるいは指令を伝える部位に異常があるケースです。

猫では脳炎や脳腫瘍は比較的少ないですが、神経症状を示す感染症や、猫種特異的な神経障害が認められることがあります。

猫伝染性腹膜炎

【症状】
発熱、元気消失、食欲低下、体重減少。滲出型では腹水や胸水貯留による腹部膨満、呼吸困難。非滲出型では黄疸、前ぶどう膜炎、脈絡網膜炎。発作、後肢麻痺などの神経症状が見られることもある。
【原因】
猫伝染性腹膜炎ウイルスの感染。ウイルスは糞便や唾液を介した経口感染によって伝播される。
【備考】
現在、完全に治癒させるような治療法はない。感染力も強いので、多頭飼育の際には同居猫間の感染に注意が必要。ウイルスはクロルヘキシジンや家庭用漂白剤で不活化されるので環境の消毒には有効。

トキソプラズマ症

【症状】
成猫の多くは無症状あるいは軽度下痢。免疫不全状態や子猫では発熱、呼吸困難、神経症状などを呈する。
【原因】
感染猫の糞便中のトキソプラズマ原虫の経口感染、または感染動物(ネズミや鳥など)の生肉の摂取によって伝播する。
【備考】
人獣共通感染症であり、特に妊婦に感染すると流産や胎児の肝機能障害が起こることがある。

特発性多発性神経根障害(ベンガル)

【症状】
後肢の痺れから始まり、急速に前肢へ痺れが広がっていく。ベタ足での歩様、ジャンプをしなくなる、起立困難、震えなど。
【原因】
原因は解明されていないが、自己免疫疾患が疑われている。1〜2歳齢の若いベンガルでの発生が多いとされている。
【備考】
ベンガル以外の猫種では非常に稀な疾患。

眼や耳の異常

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視力の低下によって慎重に歩くようになった、あるいは平衡感覚に異常があるケースです。

動こうとしなくなる場合も多いので、最近何となく元気がないといった様子から気付くこともあります。

白内障

【症状】
物にぶつかる(特に暗い場所)、動きが鈍くなる、物音に敏感になる、眼が白く見える、眼脂、充血など。
【原因】
先天性は稀で、ほとんどは後天性。ケンカなどによる眼の外傷や異物による水晶体の損傷、ぶどう膜炎が原因となることが多い。
【備考】
糖尿病などからの続発や、老齢性の白内障は猫では少ないとされている。

中耳炎/内耳炎

【症状】
斜頚(首を傾げる)、旋回、起立困難、ふらつき、嘔吐、食欲不振など。
【原因】
外耳炎の進行によることが多い。細菌や真菌の感染、異物、腫瘍などが原因となる。
【備考】
外耳炎にならないようにすることが予防となる。しかし間違った耳掃除をすると、かえって外耳炎を誘発することもあるため、動物病院で指導を受けること。

その他

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神経系、眼、耳以外の原因で歩様異常が認められるものもいくつかあります。

どれも猫では比較的多く見られるもので、関節や神経以外も異常がないかしっかりと確認していきます。

糖尿病

【症状】
多飲多尿、食欲増加、体重減少や肥満(インスリン依存性かによる)。尿中にケトン体が出現し、ケトアシドーシスとなると嘔吐、下痢、神経障害、昏睡など。
【原因】
膵炎やヒトのⅡ型糖尿病に相当する、いわゆるインスリン分泌能の低下によるものが多い。他にも悪性腫瘍、感染症、ストレスなどによってインスリン抵抗性となった結果、糖尿病となるケースもある。
【備考】
尿量の増加が認められた場合、まずは尿検査で比重やケトン体の有無を確認する。動物病院受診によるストレスで猫の血糖値は一時的に上昇しやすいため、フルクトサミンなどの血糖マーカーを測定することもある。

爪や肉球のケガ

【症状】
跛行、患肢の挙上、触られることを嫌がるなど。
【原因】
定期的に爪切りを行わないことによる巻き爪、小石などが肉球の間に挟まる、夏場のアスファルトの上を長時間歩くなど。
【備考】
痛い箇所を無理に見ようとしたり触ったりすると攻撃される危険があるため、痛そうなら無理に触らずに動物病院を受診した方がいい。

貧血

【症状】
可視粘膜(歯茎や耳の内側など)の蒼白、運動不耐性(疲れやすい)、呼吸速拍、ふらつきなど。原因によっては黄疸、血尿、発熱、失神が見られることもある。
【原因】
免疫介在性溶血性貧血、鉄欠乏性貧血、猫白血病ウイルス感染症、骨髄疾患、腎不全、タマネギ中毒、悪性腫瘍、ピルビン酸キナーゼ欠損症など。
【備考】
原因疾患は多岐にわたり、それぞれに適切な治療が必要となる。

まとめ

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愛猫の歩き方をまじまじと観察する機会は、あまり多くないのではないでしょうか。微妙な違いは毎日気にかけていないと見落としてしまうかもしれないため、日々愛猫の様子をよく観察しておきましょう。

何か気になることがあれば、気軽に動物病院へ相談してみてください。

関連リンク

【愛猫健康チェック】猫の11箇所を見ることで愛猫の健康状態がわかる
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【獣医師監修】正しい予防を!ヒトにも感染する猫のトキソプラズマ症
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